ブログ
噛み合わせが強い人のジルコニア選び|食いしばり・歯ぎしりがある場合のポイント
2025年12月20日
日中の仕事中や、集中しているとき。あるいは眠っている間に、気づかないうちに歯を強く噛みしめてしまう「食いしばり」や「歯ぎしり」。
実はこれらは、多くの方が自覚のないまま行っているクセといわれています。
噛む力が強い方では、歯や顎にかかる負担が大きくなり、治療後の被せ物やブリッジへ影響が出ることもあります。とくに補綴治療(被せ物・クラウン・ブリッジなど)を検討している場合、どんな素材を選ぶかは、長く安定して使えるかどうかに大きく関わります。
白く強度のある素材として知られている「ジルコニア」は選択肢のひとつですが、実は種類によって特徴が大きく異なり、噛み合わせが強い方では選び方に工夫が必要です。
このコラムでは、 「噛み合わせが強い人のジルコニア選び」をテーマに、素材の違いから選び方、日常でできるケアまで、丁寧に解説していきます。
噛み合わせが強いと起こりやすい口腔内の変化
噛む力が強い方では、気づかないうちにお口の中にさまざまな変化が起こることがあります。以下はよくみられる例です。
● 歯のすり減り(咬耗)
奥歯の噛む面が平らになったり、歯の表面に細かい亀裂が入ることがあります。
「最近、歯が短くなった気がする」という方は、噛む力の影響を受けている可能性があります。
● かぶせ物の摩耗・欠け
食いしばりや歯ぎしりは、覚醒時よりも睡眠中のほうが数倍の力がかかることもあるといわれています。
そのため、硬さの足りない素材だと摩耗や欠けが起きやすくなります。
● 顎関節への負担
朝起きたときに顎が疲れている、口が開きにくいなどの症状が出ることがあります。
● 歯ぐき(歯周組織)への負担
一点に強い力がかかると、歯ぐきや骨にも負担が蓄積しやすくなります。
これらの影響は、補綴治療後の被せ物にも及ぶため、噛み合わせの状態に合わせた設計と素材選択がとても重要になります。
ジルコニアの特徴を解説
ジルコニアは「酸化ジルコニウム」という素材を用いたセラミックの一種で、金属を使用しない白い素材です。
人工関節の材料にも使われるほど耐久性に優れており、歯科でも広く利用されています。
【ジルコニアの主な特徴】
- 強度がある:割れにくく欠けにくい
- 変色しにくい:長期的に色を保ちやすい
- 金属を使わない:金属アレルギーのリスクに配慮できる
- 白く自然な見た目
ただし、ひとことに「ジルコニア」といってもすべて同じわけではなく、透明感や強度のバランスにより複数の種類に分かれます。
噛み合わせが強い方ではこの選び分けが特に大切になります。
ジルコニアの種類と特徴|どれが自分に合う?
ジルコニアには、大きく次の3タイプがあります。
①高強度ジルコニア
- とても硬く割れにくい
- 透明感は控えめ
- 奥歯・ブリッジに向いている
②高透過性ジルコニア
- 天然歯のような透明感が出やすい
- 強度は中〜高程度
- 前歯に向いている
③多層グラデーションジルコニア
- 表層は透明感があり、内部は強度を確保
- 見た目と強さのバランスが良い
- 前歯〜奥歯まで幅広く対応
噛む力が強い方では、耐久性を優先して高強度タイプが検討されることが多いですが、前歯に使う場合は自然な透明感とのバランスを見ながら選択することもあります。
噛み合わせが強い方がジルコニアを選ぶときのポイント
①強度と厚みの確保
強い素材であっても、被せ物の厚みが不足していると力に負けてしまう可能性があります。
歯の削る量や支台歯の状態を踏まえて、適切な厚みが確保できる設計が大切です。
②噛み合わせの設計(咬合設計)
噛む力が一点に集中しないように、力を分散する設計を行います。
- 咬合接触点の微調整
- 咬合面の形態を整える
- 横方向の動き(側方運動)の確認
こうした微調整は、被せ物そのものを長く使うためだけでなく、歯や顎の負担を減らすうえでも重要な工程です。
③食いしばり・歯ぎしりがある場合の夜間管理
就寝中は無意識に強い力がかかりやすいため、必要に応じてナイトガード(就寝時のマウスピース) が提案されることがあります。
ナイトガードの目的はただ「被せ物を守る」だけではなく、歯への負担の軽減や顎関節の保護にもつながります。
他素材との比較
| 項目 | ジルコニア | e-max(ガラス系セラミック) | メタルボンド |
|---|---|---|---|
| 強度 | 非常に高い | 中程度 | 金属フレームで高い |
| 見た目 | 種類により差がある | 透明感が高い | 技工により自然 |
| 適応範囲 | 前歯〜奥歯・ブリッジも可 | 前歯〜小臼歯向き | 前歯〜奥歯・ブリッジ可 |
噛み合わせが強い場合は、強度面からジルコニアが選択肢に入ることが多い一方、見た目を重視する場面では透明感のある素材を組み合わせることもあるため、症例に応じた材料選びが大切です。
長持ちさせるための日常ケア
ジルコニア自体は変色や摩耗に強い素材ですが、歯ぐきや周囲の歯の健康が保たれていることが、長く安定して使うためのポイントになります。
日常ケアで意識したいこと
- 歯ブラシに加えてフロス・歯間ブラシの習慣
- 食いしばり・歯ぎしりがある方はナイトガードの継続
- 定期的な噛み合わせチェック
被せ物は「入れて終わり」ではなく、メンテナンスによってランニングコストを下げ、トラブル予防にもつながります。
まとめ|噛み合わせの強さをふまえた素材選びが大切
噛む力が強い方では、補綴物にかかる負担が大きくなりやすいため、素材選択・設計・ケアの3つが治療の安定に深く関わります。
ジルコニアは強度に優れており、奥歯やブリッジでも使用できる素材ですが、種類ごとに透明感や強度のバランスが異なります。
大切なのは、「どの素材が良いか」ではなく、お口全体の噛み合わせや習慣を踏まえた選択をすること。
治療を検討する際には、被せ物の見た目だけで判断するのではなく、ご自身が噛む力が強いのかどうか、食いしばりの習慣があるかといった点まで確認することが大切です。
ご自身にあった素材を選択することが、割れや欠けといったトラブルの予防や、長く安定して使えることにつながります。

